旅行記一覧

「私の能登物語 My Story in 能登」あなただけのとっておきの能登ストーリー。ご応募いただいた皆様の旅行記をご紹介しています。

2010年の旅行記

2010年11月25日

軍艦島のメガネ

 もう30年も前のこと、従兄達もみんな二十歳を過ぎ、盆の休みは親族こぞってワゴン車を連ね能登旅行をすることになりました。父方の親族といっても4家族20余名になります。親孝行を兼ねての初めての「いとこ会」、5台の車に分乗し出発です。
 3泊4日の日程は、初日が珠洲市の浜辺の民宿、2日目は禄剛崎から時国家と千枚田を見学し兼六園に出ます。3日目は永平寺、丸岡城に立ち寄った後、軽井沢のペンションに。働けるようになって親孝行の真似事ができることや自分たちの好みに心も弾みます。

 農業高校を出た後、跡取りとなった弟は運転にも自信があると得意気に、普段よりはよほど饒舌に車内を笑わせます。家族旅行など縁遠かったどの家も、ドライブインごとに乗せてもらう車のメンバーを替えて、初日の珠洲市見附島の民宿についたのは午後5時ごろでした。

 8月のこと、周囲は明るく、弟と私は海に入ることにしました。見附島は遠浅とはいえ岩礁だらけです。手漕ぎボートを借りて、ほんの少し泳げそうなところに出ました。弟がボートから海に潜った後、私も続けて飛び込みました。海なし県から来た身には、とても楽しい30分です。ところが、宿に戻ると、視界がぼやけ、私は急に不機嫌になってしまいました。あろうことか、眼鏡をつけたまま海に飛び込み、なくしてしまったのです。翌日の楽しい観光も、もう台無しです。大人気ないことに、おじや叔母にも不機嫌さをぶつける私になっていました。

 翌朝5時ごろ、私は弟に起こされました。『ボートを出して眼鏡を探そう。』、『見つかりっこないよ。無理だよ。』弟は幾度も潜水を繰り返し、とうとう私の眼鏡を海の底から見つけてくれました。それからの能登観光が楽しくないはずがありません。それから2年、親族旅行は続きました。
 ところが3年目の旅行を待たず、父が他界し、その半年後には弟も急逝してしまいました。能登は楽しい家族の思い出でいっぱいです。錆びた眼鏡を見るたびに、遠い夏の日を思い出します。

栃木県 大島様

【事務局評】
親族20余名も集まっての旅行とは、とても仲の良い家族ですね!
楽しい風景が目にうかびました。 優しかった弟さんやお父さんとの大切な思い出ですね。 どうぞまた能登へ遊びに来てください。 昔と変わらぬ風景がそこにはあるはずです

PageTop