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魚醤「いしる」 海が醸す能登の味

能登の「いしる」、秋田の「しょっつる」、香川の「イカナゴ醤油」を総じて、日本では三大魚醤(ぎょしょう)とされている。早い話が大豆の替わりに海のモノで作った醤油のことである。繊細な大豆の醤油の味とはまた違う、濃厚な旨みと風味が魅力的な「いしる」の味を、ぜひ知って欲しい。

能登では昔から「いしる」の文化が深く根付いている。海の恵みを余すことなく享受する、そんな能登人の精神が魚醤を生み、さまざまな料理に活かすことを考えたのだろう。実は魚醤を調味料として使っているのは、世界人口の約6%・4億人。特に東南アジアでの使用が多く見られ、タイの「ナンプラー」やベトナムの「ヌックマム(ニョクマム)」が世界的にも有名である。

いしる写真

やまぐち店内

いしる写真

かしるの貝焼き

いしるパスタセット

ただし魚醤という名で一括りにして良いほどその味は単純ではない。原材料となる魚介の種類、作り方、気候、年数などによってその味は様々だからだ。たとえば能登には大きく分けて2種類の魚醤がある。内浦沿岸の小木港、宇出津港などの港町ではイカを原料とし、外浦沿岸の輪島港、蛸島港などの港町ではイワシやサバを原料としている。当然、味も違えば色も違う。輪島工房長屋の一角で糠漬けと「いしる」の店を構える「やまぐち」で見た「いしる」は、イカ、サバ、イワシとそれぞれの色の違いが鮮明で、もちろん味もはっきりと違っている。(※1)

中には「いしる」と聞いてそのクセの強さに敬遠する人もいるようだ。しかし多くの食品がそうであるのと同じように、市場には旨い「いしる」もあれば口に合わない「いしる」もある。要は品質の良いものを選ぶことである。「いしる」は生の魚に層状に塩を重ねて約1年間かけて熟成させる発酵食品。肝心なのは魚を新鮮なうちに塩で下処理をすること。鮮度の落ちた魚で作れば、それだけ臭いの気になる「いしる」となる、それだけのことだ。考えてみれば「いしる」とは、魚と塩だけを使って醗酵させたもの。いたってシンプルな調味料なのだ。

蕨(わらび)や大根、茄子などを3〜4日「いしる」に漬け込んで作る「べん漬け」、ホタテの貝殻を器にした「いしる」の出汁で季節の野菜や白身魚を煮込んで食べる「いしるの貝焼き」などは、「いしる」を使った郷土料理の代表格。
「いしる」をお土産に持って帰って、料理のバリエーションに加えたい。そんな方にオススメの料理も前出の「やまぐち」で聞くことが出来たのでちょっとご紹介。
まずは「いしる」とサバの糠漬けのパスタ。「いしる」とオリーブオイルでソースを作り、サバの糠漬けとパスタを絡める、ただそれだけで出来上がり。アンチョビのパスタをイメージするとわかりやすい。どこかのTV局でも試食した出演者から絶賛されていた優れもの。ぜひお試し頂きたい。その他にもサラダのドレッシングに使ったり、煮物や汁物の隠し味に使ったりするのも良い。

「いしる」「いしり」「よしる」「よしり」、能登の中でもその土地によって呼び方はちょっと変わったりするけれど、能登の魚醤であることに変わりはない。能登で「いしる」を知った途端、その風味に魅せられて虜になった旅人も多い。これぞ昔から伝わる能登ならではの味文化。


【取材協力】
輪島網元やまぐち 山口泉さん



当選者喜びの記念写真